"こっちが騙さなければ、世間に騙される。"
天才高校生たちが悪知恵を働かせて、組織規模でカンニングをする。
本作は中国で実際に起きたカンニング事件を原案に、舞台をタイに移し、高校生たちのカンニングを描いた。
サクッとあらすじ
徹底的に調べ上げるため、脚本に1年半もの月日を費やし、ハラハラドキドキ感満載のスリラー映画に仕上げた。
実話を基にした社会性と娯楽性を兼ね備えた本作は、タイ映画興行収入を次々と塗り替え、アジアを中心に世界中で大ヒットしたのだ。
主人公リンダラーは天才的な学力を持つ女子高校生。教師である厳格な父を持つ父子家庭で、その学力の高さから、奨学金で地元の名門高校に通っていた。
その高校はまさに韓国ドラマによく出てきそうなお坊ちゃま学校。一緒に通う友達はタイの中でも筋金の金持ちの息子娘が通う学校で、会話がちょいとおかしい。
落胆しなかったBMWを買ってもらえる!と意気込むアホや、高校生ながら一丁前にパーティーでシャンパンを開けたりと。
全てが豪勢な学生たちに囲まれたリンダラーだが、彼女だけが少し劣等感を感じているようだった。
ただ彼らに一目置かれる、必要とされることがひとつだけあったのだ。頭、その頭脳である。どんなテストでも100点を取るような絵に描いた天才は、学校で2人しか貰えない奨学生。
そんな圧倒的に住む環境から、家庭環境まで違う彼らから望まれることはひとつ。
"成績が足りないの!助けて!"だ。
はじめは家庭教師をバイト感覚ではじめるも、お坊ちゃまたちは努力という言葉を聞いたことがないらしい。
そういう人間が次に考えること、それはいかに努力せずに単位を取るか?である。もうこれも全世界共通であるが、次の手段などもう決まっているようなもんだ。
テスト中にリンダラーが特殊な暗号を送る。それを理解し、お坊ちゃまたちは必死に解読し、答えを記入する。
もともとピアノが得意であったリンダラーはピアノのコードをA~Dまで4種類決め、指をトコトコと机で叩く。
みんなが必死に日夜問わず勉強するテスト週間に、坊ちゃんたちは必死にピアノのコードを覚えるのだ。
そのピアノコードも、ピアノを知らない人間からしたらかなり複雑で、それが一種のテスト勉強のようになってしまう。
そんな危険な橋を渡るリンダラーには、学生で稼げないほどの大金を一回のテストで稼ぐ。そのカンニングは、僕らが知っているような机にメモを隠し持ったり、スマホで調べたりなど、そんな幼稚園児みたいな手法とは大きくかけ離れている。
学生時代にそんな幼稚なことを一所懸命し、先生にバレていた生徒がまわりに1人くらいはいただろうが、低レベルではないということだ
人が多いほど、リンダラーからしたら儲かるため、ピアノレッスンと呼び、大量の生徒を募集する。
するといつしかクラス全員がリンダラーの手元に注目し、手元だけを全員で直視するという、ちょっと面白い絵が出来上がる。
そんな生徒の悪知恵にも、気づかずイビキをかきながら寝る試験官がさぞ愚かであろう。ただこれはたかが高校の中間テストのレベルである。
そして、ついに山場を迎える。
高校3年生になるとアメリカの大学を目指す彼らに大きな壁が立ちふさがる。SITCは世界中で行われるテストなため、学校の中間テストとは位置付けが変わってくる。
そこでもカンニングを成功させるため、その頭脳をフル回転し、考え、考えまくる。世界共通試験を同日に行う。
だが、思いもよらないところに穴がある。時差だ。
シドニーは時差の関係で一番はじめにテストが行われる。タイと4時間もの時差があるので、リンダラーがはじめにシドニーでテストを受け、それの答えを記憶し、タイに送る。
するとそこで待機する別チームが、その答えを鉛筆に印刷し、客に配る。全てが秀才かつスピーディーすぎる。
タイ映画界の進撃
「バッドジーニアス」はタイ出身のナタウット・プーンピリヤ監督がメガホンを取った。インタビューの中で、監督自身がハリウッド映画好きで、その影響をモロに受けていると語っている。
それを裏付けるようにアメリカのスリラー映画のようなテンポ感のいい冒頭シーンに、喜劇感溢れる音楽が、観客の気持ちを高揚させ、次の展開を期待させる。
れっきとした犯罪者なのに、なぜか国家の英雄のように美化されて描かれ、主人公たちのエスカレートする悪事を応援したくなる。
「グッドフェローズ」を見て、映画に興味を持ったらいしが、他にもコッポラの「ゴッドファーザー」や「カンバーセーション盗聴」などマフィア映画&スリラー映画の特徴が本作からよくわかる。
最近だと大人気スリラー映画の「裏切りのサーカス」からもインスピレーションを受けたと語るなど、アメリカから遠く離れたアジアの小国で、アメリカ映画の片鱗を垣間見れる。
タイ映画で史上初 カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「ブンミおじさんの森」で注目されたタイ映画界だが、アート系作品以外に強い印象はなかった。
そんな中娯楽性が高い本作が国内外問わず評価されたタイ映画の今後にとても期待が寄せられる。
本作はタイ映画界のアカデミー賞と呼ばれるスパンナホン賞でも史上最多の12部門受賞した。国内であまり注目されなかった「ブンミおじさんの森」とは違い、国内でも評価が高かった。
こっちが騙さなければ、世間に騙されると語る主人公たち。
ハラハラドキドキを感じれる娯楽性の高い作品であるが、同時にタイの激しい貧富の差が露わにされた映画でもあった、インパクトの強い映画だった。
びぇ!