悪辣なテロリストによって明日が失われる。
2018年製作の本作は、2008年に起きたムンバイ同時多発テロを扱った実話の映画化です。
ほぼ同時刻に数カ所の高級ホテルや観光客が集うレストランが狙われ、日本人1人を含む174人が亡くなり、300人近い人が負傷しました。
五つ星ホテルを舞台に、人質を取って立て籠もるテロリストと従業員らの激しい攻防を描く。
さぁ『ホテルムンバイ』を観てみよう。
サクッとあらすじ
2008年間11月26日。
インド洋沖に大きなバッグを持った若者10人程度が見知らぬ言語を話しながら上陸するのが目撃される。
その数時間後、帰宅ラッシュに見舞われる駅を標的に手榴弾が投げ込まれテロ事件が起きた。
これは序の口に過ぎず、高級ホテルやレストランにまで手榴弾が投げ込まれ、人質を取って犯人は立て籠もる。
タージマハルホテルを舞台に従業員らとテロリストの激しい銃撃戦が始まった。
本作は現場で何が起きていたのかを時系列通りに様々な場所やそこに置かれた人間の心情を描く。
キャストと製作陣
製作陣
オーストラリアで活躍するアンソニー・マラス監督メガホンを取り、脚本は幼少期にインドに住んでいたスコットランドの執筆家ジョン・コリーとの共同で執筆した。
本作同様インドを舞台にした奇跡の実話の映画『Lion〜25年目のただいま』で音楽を担当したドイツ人作曲家のハウシュカが音楽を担当。
キャスト
主人公の勇敢なホテルマンを演じたのは『Lion25年目のただいま』や『スラムドック$ミリオネア』のデーヴ・パテール。
ホテルの従業員を『君の名で僕を呼んで。』でアカデミー助演賞にノミネートされたイケメン俳優アーミー・ハマーが演じた。
他にも『ハリーポッター』シリーズのシリウス・マルフォイ役のジェイソン・アイザックやインド人俳優が多数出演。
さぁ感想を。
感想
ムンバイで起こったテロ事件を映像化した本作は、極限状態に追い込まれた観光客と憎悪に支配された若者テロリストの激しい攻防を描くとともに、あのとき現場では何が起きていたのかを多角的に描きました。

75点/100点
断片的に挿し込まれる極限状態の観客と恐怖に怯えるテロリストのコントラストは、まるで現場にいるような感覚に陥るも、テロリスト側の感情描写が少し浅かった。
2000年代に世界各地で急増するテロ事件。
代表的な例と言えば、2001年のニューヨークで起きた同時多発テロが頭に思い浮かべるだろうが、2008年のムンバイ同時多発テロは記憶に新しい。
三井丸紅液化ガスの職員だった日本人1人もテロによって亡くなり、世界を強振させた。
事件後インド政府が捜査に乗り出すも、生き残った実行犯数人を除いて全貌の解明はされず、謎に包まれたままなのだ。
事件を1つ1つ紐解いていくと、裏の組織からのサポートなしではこれほどの規模の事件を起こすことは不可能であり、様々な憶測が飛び交っている。
2001年同時多発テロのときも状況は変わらず、実質的な根拠がなくあやふやな状態のまま、当時の大統領であったブッシュはイラク戦争をはじめてしまった。
イラクとの関連性は掴めず、ベトナム戦争に続く無意味な戦争を再びアメリカは重ねてしまったのだ。
本作が扱う内容は事件の一部始終を描いただけでその後の捜査や真相解明については一切語られることはなかったが、実はそれができない。
事件後、2001年のテロ同様様々な憶測が飛び交い、隣国のパキスタンのイスラム系組織との関連性が問われたが、真実は闇に葬られたままだ。
テロ事件になると必ず名前が挙がるアルカイーダの関連性は否定されたものの、アメリカとイラクが戦争をしたように、事件後インド国内ではパキスタンを弾圧する動きに発展し、収集がつかない状況が長く続いてしまっている。
ムンバイ同時多発テロの特徴はニューヨークを超える複数の場所でほぼ同時刻にテロ行動が確認され、中でも外国人(特にアメリカ人やイギリス人)のパスポートを探していたらしく、欧米人に特別な嫌悪感を示すテロ組織の思惑も読み取れる。
ただ事件を調べていくと、犯人らはウルドゥー語という南インド語を話しており(インドは地域によって言語が違い200を超える言語が存在する)、外国人ではないらしく、真相はよくわからない。
ただ身代金目的ではなく、刑務所にいる同胞の解放を求めており、それが叶わないとなると、テロリストたちは外国人だろうと構わず撃ち殺していた。
本作で建築士を演じたアーミー・ハマーも、気難しい性格の大富豪を演じたジェイソン・アイザックは別室に隔離された挙句、最後は殺されてしまう結末を迎えてしまうのだ。
本作は事件の真相を時系列に沿って描いており、事件から3時間後、語時間後、9時間後と、まるで時計の針がチクタク動いているような緊張感に駆られながら、テロリストと悲劇に見舞われた観光客の動向をカメラが追う。
映画としてどう全編にわたって緊張感を張り巡らせ、常に心臓バクバクな状況を作り出すかのトリックが非常に巧妙で、ホラー嫌いの筆者は常に「マジか!マジか!ちょっと待ってよ!」と心の声が漏れてしまうほどの緊張感と恐怖に覆われた。
例えば幼児を抱えた母親はテロリストの手から逃れるために沈黙を貫くも、幼児が突然泣き出す。あれほど死を悟ったシーンはないだろう。
他にもテロリストの動向を様々な角度から映すトリックが面白い。防犯カメラを通して廊下をウロウロ歩きまわる彼らを写し、次のカットで息を殺しながら、押入れに隠れる観光客を撮るなど、双方の目線から恐怖を煽る。
ただそこまで徹底的に両者の心理描写を描くのなら、テロリストの心情がどこから来たのか、なぜそう思うのかを描いてくれると面白いなぁと思いました。
びぇ!