タランティーノが5年の歳月費やした野心作
ハリウッドを激震させたカルト集団マンソン・ファミリーが暴徒化し、女優のシャロン・テートと身籠った子供が殺害された事件を、タランティーノ監督が映像化!
レオナルド・ディカプリオ、ブラット・ピットやマーゴット・ロビーなど豪華俳優陣が総出演し、ハリウッド黄金期をタランティーノがぶった斬る!
さぁタランティーノが描くハリウッドを観てみよう。
サクッとあらすじ
ときはスティーブ・マックイーンやブルース・リーなどの人気アクション俳優がハリウッドを湧かす1969年。
ハリウッドの黄金期と呼ばれ、イタリア発祥の西部劇(マカロニウエスタン)が量産され、世界を魅了する文化の発祥地として、不動の地位を築いていた。
主人公のリック・ダルトンはテレビのスターとして活躍し、アクションテレビシリーズ『Bounty Law』に主演し、人気を博していた。
クリフ・ブースはダルトンのスタントマンであり、長年の友でもあった。クリフ自身は車上で大きな犬と共に生活していた。
シャロン・テートは売れ始めの女優で、映画の端役に出演するなど、将来有望の注目株。
さらに有名監督ロマン・ポランスキーとの間に子を宿し、ロマンと共にアツアツな日常を過ごす。
夜中になると、高級車を乗り回しパーティーへ出かける。
そこにはスティーブ・マックイーンなど往年のスターたちが顔を出す楽園であり、ハリウッドの成功者を代弁する華やかさが存在する。
一方、カリフォルニア州の田舎では、原始的な生活を好むヒッピーたちが集まり、独自のコミュニティーを作り上げていた。
その中心に立つ男チャールズ・マンソンは、やがて全米を強震させた「マンソン・ファミリー」の教祖となり、無差別に人を殺すシリアル・キラーである。
カリフォルニアの奥地で、現代的な車などは一切使わず、馬を乗りまわす”新たなスタイル”に魅了された若者たちが集まる理想の場所であった。
1960年代後半のハリウッドの黄金期を舞台に、様々なバックグラウンドを持つ人々が最後に迎えるドラマの最終着点とは!?
事実をもとに、激動のハリウッドの黄金期を舞台に、タランティーノ節が炸裂する!
知っとくべきトリビア集
ここでネタバレの前に、本作には多くの知っているとハナタカ情報がたくさんあるので、トリビアをいくつかご紹介します。
本作は、事実をもとに作られているが、タランティーノ監督は忠実に史実通りに映像化するのではなく、彼独自の視点を取り入れて、当時のハリウッドを再構築しました。
リック・ダルトン
主人公のリック・ダルトンとスタントマンのクリフ・ブースは実在しない架空の人物。
ダルトンは、スティーブ・マックイーンをはじめテレビシリーズで活躍した俳優から着想を得ている。
他にもジョージ・マハリス、エド・バーニス、タブ・ハンターなどからインスピレーションを受けた。
映画では描かれなかったが、ダルトンには双極性障害があった。
クリフ・ブース
ダルトンのスタントマンのクリフも架空の人物。
『明日の壁をぶち破れ』のビリー・ジャックがモデルとなっており、他にもアクション映画に多大な功績を残したゲイリー・ケントからも着想を得た。
スタントマンとして、ダルトンに雇われたクリフだが、過去に妻との間によからぬ噂がある。ネタバレになるので、本ブログの後半パートで解説します。
チャールズ・マンソン
女優シャロン・テートを信者によって殺させ、カルト集団のリーダーとして、マンソンは米国犯罪史に残るサイコパス。
本編にマンソンが作り上げたコミューンが登場し、多くのヒッピーが住み着いていた。
そんな重要なマンソン役を演じたデイモン・ヘリマンは、Netflixドラマ『マインドハンター』でもチャールズ・マンソンを演じた。
1969年を舞台にした本作は、マンソンがまだ捕まる前であり、『マインドハンター』は捕まった後のマンソンを演じた。
若き頃のマンソンのシリーズ作品のようで、両作に謎の共通点が見受けられる。
本物のチャーリー・マンソンは本作の撮影中、カリフォルニアの刑務所で亡くなった。
Bounty Law
『Bounty Law』は、本編でダルトンが主演するアクションテレビシリーズ。
クリフと共に自宅で自身の主演作をみるシーンがあるが、このドラマにも原作が存在する。
スティーブ・マックイーンが主演した『拳銃無宿』から着想を得たもので、のちに映画化までされている。
さらにタランティーノは、本編に少ししか出てこない『Bounty Law』の脚本を実際に5エピソード書いている。
もし機会があればNetflixとかで『Bounty Law』のドラマを作りたいそうで、映画にほとんど関係ない細部までこだわるタランティーノに脱帽ですよ!!!
ブルース・リー、スティーブ・マックイーンやチャーリー・マンソンなど実在した人物が出演する一方、実在した複数の人物の要素を重ね合わせた架空の人物も多く出演している。
これは事実に沿った物語であるが、タランティーノ監督独自の視点から当時のハリウッドを斜め上から描いているというのが最大の特徴です。
さぁ、やっと本編の謎に切り込みますよ!!!
地上の楽園
本作は大きく分けて3つのストーリーに分けられる。
- ハリウッドの表面
- ハリウッドの裏側
- ヒッピーのコミューン
女優のシャロン・テートはすでに成功していたロマン・ポランスキーとの間に子を授かり、毎日のようにパーティーに出かけて行って大物スターたちを目にしている売り出し中のハリウッド女優。
毎晩のように高級車を乗り回し、爆音で音楽を流しながらハリウッドをドライブする生活。
それは誰もが夢にみる理想中の理想であり、シャロンはその豪華なライフスタイルを体現してる成功者なのだ。
彼らの生きる世界は、スティーブ・マックイーンなど当時のハリウッドスターたちがスクリーンに一堂に集まる理想郷である。
リック・ダルトンは相棒のクリフと共に忙しい撮影の日々を送る。
撮影があるとすぐ次の撮影に取り掛かるほど多忙さを極め、イタリアに西部劇を撮影に行くほど売れっ子俳優なのだ。
クリフはダルトンのスタントマンとして激しいアクションシーンをこなし、彼の送迎まで引き受ける。まさにハリウッドの裏側を象徴するふたり。
豪勢な生活が隣り合わせのハリウッドからそう遠くないカリフォルニアのある田舎では、原始的な生活を求めて、若者たちが挙ってコミュニティーを作り上げていた。
その中心に生きるチャーリー・マンソンは、信者たちを洗脳し、危険なカルト集団へ変貌している。
70年代を代表するサブカルチャーのヒッピーたちは、都市部から離れ、馬やヒッチハイクを交通手段にし、女性でも胸毛を剃らない黒木香スタイル。
都市化が進むことに嫌気が指し、必要最低限の生活を求めて、独自のコミュニティーを形成することが彼らにとっての理想郷であった。
本作は一見共通点のない3つのストーリーが見事に歯車を合わせ、衝撃のラストまで突っ走る!
ハリウッドの豪勢な生活も、ヒッピーたちが原始的な生活を好むのも、ベクトルは逆方向なのに、どちらも理想郷を体現しているのが、映画の構成上よくできているなぁとまだタランティーノ監督に脱帽ですよ!
シャロン・テートの悲劇(?)
<ネタバレが含まれます。>
事実と空想の世界が絶妙に共存し、存在したかもしれないもうひとつのパラレルワールドではないのか?と疑ってしまうほど、徹底的に細部にこだわり、3つの物語が交錯する。
シャロン・テートは実際にマンソンファミリーに殺害され、お腹に宿っていた子供まで一緒に命を落とす。
その後、マンソンが捕まり、マンソン・ファミリーは徹底的に解体された。
だが、本作が待ち受ける衝撃のラストは、事実通りには行かず、タランティーノ監督独自の解釈のもと、別の世界が展開される。
本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、タランティーノ監督がナチスを描いた『イングロリアス・バスターズ』の続編にあたる。
『イングロリアス・バスターズ』と本作の共通点は多い。
例えば、最も印象的なシーンである火炎放射でナチスを一掃するシーンも、本作の冒頭でダルトンがテレビドラマの中で再現していた。
第二次世界大戦を舞台にしているはずなのに、アメリカから送られた暗殺部隊によって呆気なくナチスは殺されてしまう。
実際にそんな事実はないのに、タランティーノ監督は映画を通してナチスに復讐したのだ。
この復讐こそが本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも大事なファクターになってくる。
シャロン・テートがマンソンファミリーによって殺された事実は一旦置いておき、タランティーノ監督は本作のラストでテートらが殺されるという残酷なプロットは用意していなかった。
テートの隣に住んでいたダルトンの家にマンソン・ファミリーが押しかけ、ダルトンを殺そうとするが、スタントマンのクリフのおかげで、返り討ちにされた、というのが本作のネタバレ。
『イングロリアス・バスターズ』でナチスはアメリカ兵によって火炙りにされ、本作でテートは殺されず、押し入ったダルトンの家でクリフに返り討ちにされてしまう。
タランティーノ監督にとって事実などどうでもよく、映画を使ってナチスやマンソンに復讐するという観点から『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は『イングロリアス・バスターズ』続編になるのではないかと思う。
『Bounty Law』のプロットまでしっかり執筆するタランティーノ監督だが、クリフの過去についても衝撃的な事実が浮かび上がってくる。
クリフは過去に妻であった女性を殺している。残念ながら本編ではそれを確かめる描写がないが、そんな細かな設定まで用意し、ファンを熱狂させる。
それがタラちゃんですよ!
感想
本編時間2時間41分と3時間近くあるのに、全く飽きを感じさせないプロットに演出。
クエンティン・タランティーノ監督の作品はハズレがないとよく言われるが、今回もまた彼は名作を世に送り出してしまった。
レオナルド・ディカプリオとブラット・ピットという二大ビックネームを超える迫力と、映画ファンを興奮させる衝撃のラストには満足した。
シャロン・テートが人生を謳歌する姿を見ると、その先を知る観客は、「あぁなんてかわいそうな女の子だ。これから死んじゃうんだよね」と悲観的に見てると、マンソンからの襲撃を見事に返り討ちにし、全てがさっぱりする。
第二次世界大戦にヨーロッパを恐怖に陥れたナチスを映画を通してギャフンと言わせた復讐劇『イングロリアス・バスターズ』と、マンソンたちをギャフンと言わせた両作がいかに素晴らしく爽快感のある復讐劇か、改めて思い知った。
ディカプリオが演じるダルトンは、アメリカ人男性のイメージを濃縮したようなユーモア溢れる人物像に出来上がり
ブラット・ピット演じるクリフは、映画やドラマには必需品の独特の雰囲気を持つ愛されキャラであった。
スティーブ・マックイーンやブルース・リーなど当時の光景をそのまま再現したような激動のハリウッドと、ヒッピー文化を体現したマンソン・ファミリーの原始的な生活を両方見せられ、まさに69年のハリウッドを出し惜しみなく、表と裏を表現した。
これが69年のハリウッドの全てだ!と見せびらかしてくれるタランティーノ監督にまたまら脱帽ですよ。
これほどまで豪華キャストを集めて、それぞれの個性を邪魔しない程度の距離を保ちつつ、個々が魅力をふんだんに表現できる場を作り出したタランティーノ監督の手腕の高さは否定できない。
が、僕は本作で個人的にスポットライトを当てたい女優がいる。マンソン・ファミリーの一員を演じたヒッピー女子のプッシーキャットを演じたマーガレット・クアリーである。
芸能一家に生まれた彼女はNetflix映画『ユピテルとイオ地球最後の少女』で主演を務めた若手女優だ。この映画は全然面白くないが、本編での彼女の演技は才能を感じる。
タランティーノ監督は、MCUのように過去作品と何らかの共通点を作品で描くことが多い。
本作でもタランティーノ作品に必須のRed Appleがエンドクレジットのシーンで登場したり、 彼のトリビアは挙げるとキリがないので、興味のある方はタランティーノWiki(英語版のみ)をご覧ください。
びぇ!